晴風万里

文化学園装飾博物館創立77周年記念「『装苑』」と「装苑賞」その歩み展」を見て



ふぁっちょん幻論第79回&茫洋物見遊山記第130回

文化出版局から1936年に創刊された服飾雑誌『装苑』がわが国のふぁっちょんと雑誌の世界に大きな影響を与えたことはいうまでない。思えば私が同誌のパリ特派員であった故久田尚子さんとお近づきの栄を忝なうしたのも、およそ40年の昔のことで、それは展示会にみえた彼女の高価なエルメスのハンカチーフの忘れものを私がただちにタクシーに乗って届けに行ったからだった。

当時の文化学園の前庭は広大な原っぱのようで、そのいちばん右奥に木造の旧遠藤記念体育館が立っていたのを昭和の夢のように思い出す。まだ巨大な高層ビルが建つ前ののんびりした時代だった。今回の展覧会にはその当時に刊行されていた『装苑』の創刊以来のバックナンバー850冊がずらりと展示されていて殊の外懐かしかった。

また会場には、高田賢三や山本耀司、小篠順子(コシノ・ジュンコ)、山本寛斎、故熊谷登喜夫、安部兼章など、1956年に『装苑』が創設した「装苑賞」(服飾界の「芥川賞」に相当する)の受賞作がほぼ全点展示されており、実に見ごたえがある。

総じて50年代の作品はデザインがシンプルで個性的であり、自信たっぷりにがっしり構築されているという、かの小津映画の服飾&インテリアにも通底する好ましい印象がある。ところが60年代、70年代と進むにつれて、その自信が次第に揺らぎ始め、なにやら妙な不安定さが強まってくるのだが、先行する欧米のモード対する畏敬の念と生真面目な模倣の姿勢は不変である。

突如状況が一変するのは80年代で、洋服の構造が異様なまでに肥大歪曲大型化し、それまではまがりなりにも端正でありエレガントであったドレスが、なにやら巨大な、のっぺりとして醜い「1枚の大凧」のような姿かたちのものに変身してしまうのである。

ここでは従来の欧米ふぁっちょんに対する謙虚な模倣と学習の念が吹き飛び、服飾の定型に対する乱暴な否定と冒涜するような不遜な気分が横溢する。80年代はバブルの時代であるとともに「現代変態バサラの時代」であったことが分かる。

つづく90年代から現在までは、もはや死語となった「ポスト・モダンあるいはミニマリズムの時代」で、デザインの細部に亘って異様なまでの造作を施して自己満足に耽るという、かの狂乱の80年代とはベクトルが全然異なる、されどこれまた実に奇妙な時代が原子力潜水艦のやうに深く静かに潜行しているのである。

つまり外見は平静で端正な無風の時代なのだが、ちょっ「と内部を抉って見ると「♪そこにはただ風が吹いているだけ」であり、要するに「空無の時代」、「本質が欠落した時代」なのである。

もうひとつ忘れてはならないのは、このコレクションにはいまはやりの「カワイイ」作品が厳密にはただの1点もないということだ。そしてそれが「装苑賞」に代表される東京コレクション(及びパリコレ、ミラノコレ)的なるものの正統性と同時に商業的な衰退と没落を同時に象徴していることで、そのことの本当の意味は、安部自民党政権が凋落する頃には明明白白のものとなっているだろう。

すなわちこれまで「可愛い」というキーワードによって大きく展開されてきたアホ莫迦一大トレンドの終焉と、深海で死んだ振りをしていた「装苑賞」的な正統的なるものの復権の日が近づいているのである。

かわいいのがファッション!? 冗談じゃないそれはちんけなファッチョン。ほんとのファッションって凄えもんなんだぜ


なお同展は東京新宿の同館にて来たる9月28日まで開催中(日曜・祭日は休館)


「キャワイイ」は思考停止の阿片の言葉君を蕩かし骨抜きにする 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-10 10:25 | ファッション

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