晴風万里

カテゴリ:自然( 15 )




続 狂言綺語


バガテルop138


今年のセミが鳴かないとか少ないとか騒いでいるが、こと鎌倉の十二所地区に限ってはそんなことはない。当地で例年ニイニイゼミが鳴き出すのは7月の4日前後であるが、今年のニイニイゼミの初鳴きは6月27日でいつもより早く、その日から今日までたくさん鳴き騒いでいる。ニイニイからアブラゼミの間には梅と桜ほどではないが少し間隔があり、その合間を縫ってカナカナが鳴き出し、本格的な盛夏の到来を告げるアブラゼミやミンミンゼミが鳴くのは、当地では7月22から29日の間である。

以上は小生の過去6年間のデータに基づいて書いているが、もし可愛いセミたちの今年の全国的な発生が遅れていたり、最悪の場合発生数が少なかったとしたら、それは累積温度やまして福島第一原発の累積放射能せいなどではなく、数年前の発生個体数が少なかったからだと考えられる。

日本経済新聞には俳句と和歌の投稿欄がある。かつて私は黒田杏子という女性が選句する「日経俳壇」に拙い一句を「葉書」で投稿して採用されたことがあった。最近インターネットでも投稿できるようになったというのでまたやってみようとしたら、2名の選者のうちくだんの黒田女史だけはネット投稿を認めていないというので驚くとともに、その見識の高さに脱帽した次第である。所詮横書きは俳句にはなじまないと彼女はよく知っているのだ。

残念ながら今年のイチローの200本安打は絶望的だ。どんな天才にも末路はくる。晩節を汚さずに潔く引退するか、それとも松井のようにぼろぼろになってどさ回りの道を選ぶか。私は苦闘する後者の姿を見たい。


丸印は性交ありし日か荷風日記 蝶人
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by amadeusjapan | 2011-07-23 13:28 | 自然

今夜もウナギはダンス、ダンス、ダンス――滑川夜話最終回



バガテルop132&鎌倉ちょっと不思議な物語第228回

この生命力みなぎる生物についての雑文を書いてからちょうど1か月が経ちましたので、後日譚の後日譚を書いておきましょう。

たしか前回は近所の植木屋のKさんが、カーバイドを入手したらそれを駆使して可愛いウナギ犬を逮捕する計画をたてたところ、までだったと思いますが、さいわいなことに今のところカーバイド爆発計画は不発に終わり、私の愛するウナギたちは、夜な夜な愛の交歓を続けています。

この節は日が落ちるのが早くなったので、夕方6時半に黄昏迫る滑川まで行ってみましたら、あれから一段と大きく長くなった2匹の大ウナギが、追いつ追われつ全身をぐるりぐるりと回転させながら、ウサギならぬウナギのダンスを見せてくれました。

楢の木のほの暗い木陰でひとところにかたまって背びれだけをひらひらさせているハヤたちも、息をひそめて彼らの舞踏を見つめています。

そこで私は、音痴であるのをものともせず、ア・カペラで高らかに歌いあげました。


♪ソソラソラソラウナギノダンス ソソラソラソラナメリカワダンス


6小節を歌い終わってまた道端の滑川を見下ろしていると、そこへちょうど近所のTさんが通りかかりました。Tさんは昔学校の教師をしていましたが、いまは悠々自適のご身分です。私が

「この世紀の見世物をご覧なさいな」

と勧めると、しばらく夢中になって見物しておられましたが、突然携帯を取り出しましたので、このオオウナギの饗宴をデジカメに記録しておこうとするのかと思ったら、

「そういえば最近私の家の庭にカルガモの親子が団体でまぎれこんできたんですよ」

と言って、可愛いいカルガモちゃんたちの写真を見せてくださいました。
けれどどうやらこの方は、ウナギよりもカルガモちゃんが可愛いいらしいので、私はちょっとがっかりしました。

Tさんが去ってしばらくすると、今度は有名な日本画家の小泉淳作先生が腰をくの字に折り曲げながら、ゆっくりこちらにやって来ました。
ちなみに先生は今月27日まで日本橋高島屋で東大寺本坊襖絵完成を記念した一大展覧会を開催されています。そこで私は、

「先生、先生、ウナギですよ。ウナギがダンスしておりますよ」

と申し上げようとしたのですが、折悪しくそこへ鎌倉駅行のバスが滑り込んできたので、白髪の魔法使いのような先生の姿は、疾走する京急バスのドアの奥に飲み込まれてしまったのでした。

魔法使いの棒一閃オオウナギぐるりぐるり 茫洋
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by amadeusjapan | 2010-09-21 15:59 | 自然

真夏の夜のオオウナギ 後日譚



鎌倉ちょっと不思議な物語第226回&バガテルop131
栗の木の木下闇抜けて大ウナギ見にゆく 茫洋


昨夜2個の仕掛けが撤去された滑川を訪れた私は、何回見直してもウナギの姿が見られないのでがっかりして橋のたもとを立ち去ろうとした。

その時、息を切らして駆けつける背の低い中年の男性の姿があった。この人物には見覚えがある。私の家の近所に住んでいる植木屋のKさん推定55歳で前夜のKさんの弟である。

縮のシャツとステテコをはいたKさんは食い入るように川面を見つめている。「いくら探してももういませんよ。昨夜ヤナを仕掛けた人たちが全部捕まえてしまったんだから」
と私が教えると、Kさんは私の顔を見て

「ところがね、ヤナは空っぽだったそうだ」

と言ったので、私はびっくりすると同時に、

「さすがは滑川のオオウナギ、やるもんだね」
とひそかに舌を巻いたのだった

「ウナギも馬鹿じゃない。危険を察知して上流に逃げたんだ。しかし今はウナギの産卵期でね。1匹のオオウナギのオスがいるところには何匹かのメスウナギが必ずいるんです。よーし、こうしちゃいられん。カーバイドの手配をしなくちゃ」

「エッ、爆弾を川に投げ込むんじゃないでしょうね?」

「とんでもない。カーバイドランプで川を照らすと、魚はみんな寄ってくる。そいつを一網打尽にするんですよ」

と言い捨てて、Kさんは脱兎のごとく家にとって返した。

きっとこれから新兵器のアセチレンガスを入手して、巨大ウナギを自分のものししようとするのでしょう。

新居に引っ越したばかりのKさんですが、急な病気で細君を亡くされたばかり。前夜Kさんの兄さんが、

「おいらは身内に不幸があったばっかりだから殺生はしたくない」

と言っていたのはそのことだったのですが、弟のKさんはその弔い合戦を、罪もないウナギに対して仕掛けようとするのでしょうか。

一難去ってまた一難。私はオオウナギたちの身の安全を祈りつつとぼとぼと家路をたどったことでした。


三日月や雌雄を決する大ウナギ 茫洋
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by amadeusjapan | 2010-08-22 19:49 | 自然

真夏の夜のオオウナギ 後篇



鎌倉ちょっと不思議な物語第225回&バガテルop130


息子が都会に去った翌日からも、私は夜になると例の小川にいそいそと足を運んでいた。

1メートル超の大ウナギは相変わらず健在で、毎晩見事な反転と跳躍を見せてくれるが、昨夜は30センチに満たない小ウナギもその近くで泳いでいた。どうやらこの界隈はかなりの数のウナギが棲息しているらしい。

ふと見ると2,3人の中年男がワイワイ騒いでいる。
やはり私と同じようにウナギ見物に来たのかと思っていたら、そうではない。あれを捕まえようとひそひそ相談しているのである。

聞くともなく耳を傾けていると、最近滑川の水がきれいになったので、アユが遡上するようになり、そのアユを追ってウナギが海から上るようになったらしい。ハヤはよく見かけるがアユまで棲んでいるとはしらなんだ。

なんでも今年はこの近所では5匹のウナギが目撃され、前夜までにそのうちすでに3匹は捕獲された。残っているのはこのオオウナギを含めた2匹である。よって一刻も早くこの伝説の大ウナギをつかまえたい、と焦り逸っているのであった。

よく見ればそのうちの一人はすでにヤナを持っている。こいつにミミズをしかけて流れに伏せておけば間違いなく仕掛けにかかるであろう、と地元はえぬきのおやじさんが、ヤナを持った若い衆に教えを垂れている。

「俺はこないだ親戚で不幸があったから、今夜は殺生したくねええんだ。でもあんたにはやり方を教えてやるよ。ヤナなんかより橋の上から糸を垂らして直接釣ればいいんだよ。すぐにとびついてくるよ」
と自信ありげに語っているのは、町内会の役員のKさん65歳だ。

「でも、餌がないんや。餌はどうしたらええんや」

と大阪弁で喚いているのは、神社の麓に住んでいる新参者のAさん推定40歳だ。こいつはオオウナギをモノにしたいという欲望で目が血走っていた。

「それじやあ、これからオイラが懐中電灯を持ってくるから、一緒に餌のミミズを獲りに行こう。オイラも付き合ってやるよ」
と言った後で、Kさんがつぶやいた。

「でも、あいつ、なんだかうれしそうに泳いでいるじゃないか。このままにしといてもいいんじゃないか……」

そうだよね。君はよくわかってるじゃないか。
それにいくら天然自然の国産大ウナギでも、あれくらい大きくなった奴は食べても全然美味くないからね……。

さてその翌日、まだ大ウナギの饗宴は続いているのかしら、と恐る恐る滑川に足を運んだら、ウナギなんぞ大も、中も、小すら影も形もなかった。

その代わりに立派なヤナが2か所に仕掛けられていたので、きっと半月間にわたって孤高の五風十雨居士の疲れた心を慰藉してくれた本渓流今季最後のウナギたちは、悲しいかな一網打尽にされてしまったのあらう。

南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。


健ちゃんが逃がしてやりし大ウナギ今宵も躍るよ滑川の淵 茫洋
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by amadeusjapan | 2010-08-21 20:13 | 自然

ウナギの大回遊



バガテルop127

謹んで暑中お見舞い申し上げます。

こんなに暑いと自分の脳力ではなんにも考えられないので、本日は以前日経の夕刊コラムで国際高等研究所の尾池和夫さんが東大大気海洋研究所の西田睦所長のお話にもとづいて書かれていた「ニホンウナギの記憶」からほとんどそのまま引用したいと存じます。

四万十川など西南日本の河川には天然ウナギが棲息しています。ウナギの稚魚は冬の川を上ってクロコになり、黄鰻になって数年を過ごし、銀鰻となって川を下るのですが、さてそこからどこへ行って産卵するのでしょう?

この長年の疑問が、やっと06年になって解決しました。ニホンウナギの産卵地がマリアナ諸島の北西約370キロにある北緯14度、東経143度付近の「スルガ海山」であることが、東大海洋研究所の塚本勝巳さんたちによって特定されたのです。ここで生まれたニホンウナギは北赤道海流と黒潮に乗って3000kmの大回遊をして日本にやって来るのです。

ウナギの先祖が地球に登場したのが2000万年前だとすると、その頃の西南日本の地は今よりももっと南にあり、その近くにマリアナ諸島がありました。またちょうどその頃インド大陸とアジアの衝突でヒマラヤが隆起し始め、その隆起した山地から豊かな栄養が大河によって海に運ばれるようになりました。安全な深海で生まれたウナギは近くの栄養のある浅い海に来て、その近くの陸地の川に上って成長したのでした。

地球のプレートは1年に5センチというゆっくりした速度で動いていますが、2000万年あれば1000キロ動くことになります。この結果マリアナ諸島は東へ、西南日本は北へ大きく移動して現在の位置に来たのですが、驚いたことにニホンウナギは、遠い先祖の記憶をたどって大回遊しながら相変わらず産卵を続けているのです。


野に山にノウゼンカズラの花咲けば狂乱の夏はいまぞ来にけり 茫洋
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by amadeusjapan | 2010-07-21 08:08 | 自然

蛍の頃



バガテルop125

今年も滑川に蛍の季節が訪れました。

2010年の初見は5月28日の午後7時30分、小さな竹橋の上流で2匹が舞っておりました。ちなみに昨年は5月21日に1匹、おととしは6月4日になんと7匹の乱舞、その前年の2007年は6月2日に2匹でした

どうしてそんなことが分かるかって? それはね、私が博文館の10年連用日記をつけていてね、その日の天気と四季折々のチョウやカエルの産卵日や昆虫類の初見日についてメモしてあるからなのです。

それはともかく、今年はなんども台風並みの大水がこの狭くて小さな滑川を奔流のように襲いかかり、すべての動植物を由比ヶ浜の海岸に押し流したはずなのに、よくぞ蛍の幼虫の棲み家であるカワニナが川の底に残っていてくれたものです。

さきほどまた自転車で捜索に行ってきましたら、和泉橋の上流の葉っぱの陰で3匹の青白い光が点滅していましたから、昨年ほどではなくとも初夏の夜の風物詩としての役割を何とか果たしてくれそうです。

しかし町内会の連中が近々川掃除をするとかいうているので、彼らの棲み家を根絶やしにしまいかと心配。川をきれいにするのもいいけれどこの河川が全国的に貴重な天然ヘイケボタルの中世以来の自生地であることによくよく思いを致してほしいものです。

私の意見では人類は蛍の光を愛でる人とそうでない人とに分かれ、私は後者の人々とは席を同じくしたいとは思いません。またこの際ついでに言いたいことを言わせていただくならば、チョウと蛍が死者の精霊であることについてはかなり確かであるように思われます。

    父よ母よムクよみなみなホタルとなりて我をおとなう 茫洋
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by amadeusjapan | 2010-06-02 08:15 | 自然

花盗人



バガテルop115

青白い花が近所の草むらに咲いていました。

とても珍しい可憐な花です。私が写真を撮っていると、通りがかりのハイカーも数人立ち止まり、

「トリカブトに似ていますね」
「いや、あれは夏の花だからね」
「それでは、いったい何の花でしょう?」
「らんらんランラン蘭の花? あなたのお名前なんていうの?」

なぞと喃喃喋喋、丁丁発止と楽しくおしゃべりしたのが昨日の午後のこと。

 今朝早速もう一度撮影しようと現場を訪れましたら、影も形もありません。

気をつけてよくよく探してみたら、花があったと思しきあたりに、ぽっかり開いた黒土の穴。一昼夜の間に花盗人が鼠小僧のやうにやってきたのでせう。

無残に花を散らし、風と共に去りぬ。油断も隙もあったものではないわいな。

どうにも風流を解さぬ世の中になり果てたものです。


♪仁義なき花盗人を憎みけり 茫洋
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by amadeusjapan | 2009-11-28 17:30 | 自然

出羽三山を訪ねて



バガテルop110

火曜日から木曜日までの3日間、蔵王・月山・鳥海山のツアー旅行に参加してきました。出羽三山プラス鳥海山の四山探訪というわけです。

第1日は東京駅を朝の8時8分に出るやまびこに乗って福島駅まで。そこからは観光バスに運ばれて蔵王の山頂に登って眼下に広がるエメラルドグリーンの「お釜」を覗き、蔵王山麓駅からロープウエイーで蔵王高原駅に行って夏山リフトに乗り換えたあと、観松平・いろは沼を山岳ガイドさんと散策して黒姫展望台から360度のパノラマを展望、またバスに乗って蔵王温泉で宿泊しました。
この温泉は酸度が高く疲労した体によく沁みとおりました。

2日目はお湯が流れる赤い巨岩が神体である湯殿山神社を訪ねたあと、急峻な坂道を猛烈なS字を描く月山高原ラインを懸命に走破して(主語はバス)月山に上り、阿弥陀ケ原湿原を山岳ガイドさんと散策したあと、今度は出羽三山のひとつである羽黒山に登り、開山から1400余年の歴史を誇る三山神社三神合祭殿に参拝し、そのあと日本海の海岸沿いの湯の浜温泉に宿泊し大きな蟹をまるごと一匹たいらげたのでした。きれいな海水がやわらかな砂浜に穏やかに打ちよせておりました。

最終日は酒田から北上して松島とならぶ九十九島・八十八潟の名所とうたわれた象潟を訪れ、松尾芭蕉の「象潟や雨に西施がねぶの花」ゆかりの地を見下ろし、一八〇四年の隆起なかりせばの思いを新たにしたことでした。その後バスは鳥海山の五合目まで登り、私たちは付近の白糸の滝を鑑賞したり、とおく岩木山の頂上を遠望したり、四囲の絶景を満喫し、最後に山形県内随一の高さ63mの玉簾の滝、安達太良山を見物して郡山駅にたどり着き、東京駅には夜一〇時、自宅には一一時半を過ぎて到着しました。

このコースは六月から運行していますが、三日間とも晴天に恵まれたのは今回がはじめてだそうですが、運よく好条件に巡り合うことができ感謝です。



♪もう二度と見ぬ海山空花こころゆくまで眺めたり 茫洋

♪名も知らぬ蝉は鳴きたり鳥海山
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by amadeusjapan | 2009-08-28 16:41 | 自然

こんにちは、ベンジャミン



バガテルop94&鎌倉ちょっと不思議な物語第176回
 
雨上がりの午後、散歩でもしようかと玄関を出た私は思わぬ光景にびっくり仰天しました。鉢植えのスミレになんとアオバセセリが蜜を吸いにきているのです。

アオバセセリを漢字で書けば青羽挵蝶、学名choaspes benjamini。分布は青森県から八重山諸島。九州以北では年2回(5~6月、7~8月)の発生。飛び方は速く、雄は林間の空地などで長時間同じコースを飛ぶ。幼虫の食卓はアワブキ科のアワブキ、ヤマビワなど。越冬態は蛹。
などと図鑑に出ています。

この近所にはヤマビワはありませんが、アワブキならたしかどこかで見たことがあります。、燃やすと切り口から泡が出るというあの樹木の葉を食べながら育った幼虫が、この暖かさにうかうかと羽化してしまったのでしょうか。だからこんなに小さいのかしら。

私がこれまでにたった2度ほど見掛けたアオバセセリは開張45~50センチでかなり大型でしたが、これは30センチくらいの小型です。しかし、よくも私の家に迷い込んでくれたこと。同じ木を食草とするシミナガシやカアオアイを食べるギフチョウともどももう生きている間は二度とお目にかかることはないだろうと思っていただけに、私はほんとうにうれしくなりました。

最近は仕事に恵まれず、いろいろ行く末について思い悩むことが多く、毎日鬱々と朝比奈峠を猫背で歩いていた私は、これこそはさだめし天からのよき便りであろう、と久しぶりに痛む背中をますぐに伸ばして4月の青い空を仰いだことでした。

思えば今を去る01年の夏に、私はなんとなく、ほんとうに何心なくこんな俳句を詠んだことがありますが、今日はじめてアオバセセリの学名を知って、私は思わず、「ああ、僕は長い間きみに会いたかったんだ」と思ったことでした。

♪ベンジャミンてふ名の友を持ちたきこの夕べ 茫洋
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by amadeusjapan | 2009-04-23 07:46 | 自然

あるカミキリムシの死



♪バガテルop65

昼間榎の葉っぱにとまっていたいまでは希少種となったゴマダラカミキリが、午後道路で車に轢かれて死んでいた。私はその美虫薄命、諸行無常に哀れを感じ、終日心身が深い憂愁に閉ざされるのを覚えた。

とつくにのいにしえの死より、向こう三軒両隣の死にたての死、見知らぬ人間よりは最愛の虫や花や獣の横死に対して、激しく胸を引き裂かれるのは私だけだろうか。

すぐる大戦の膨大な死者に対してはかろうじて一掬の涙を注ぎ、平成の御世のちっぽけな駄犬や昆虫の死にかくも夥しい涙を流すとは、まことに不条理な話であるが、そこが神ならぬ身の至らなさ、情けなさ、往々にしてそういうけしからぬ事態が出来するのである。

もっと不思議でけしからぬのは、私が実在の人間や動植物の死に対するよりも、映画やドラマや小説の中に出てきた仮想人物に対して激しく喜怒哀楽することである。

ブランコを漕ぎながら♪命短し恋せよ乙女などと下手な歌を歌っている志村喬の虚構の死に対してあれほど激しく慟哭できるならば、なぜアウシュビッツや真珠湾や広島長崎や、戦艦大和やらガダルカナルの密林に消えた無数の人々の死に対して、もっと激しく嗚咽し、もっともっと大量の涙を流さないのか? それが物事の真実と釣り合った人間らしい感情の適切な発露であるはずだ。

にもかかわらず、私は歴史上の巨大な悲劇に対してはいちじるしく涙を惜しみ、空想上の、ある意味では笑うべき瑣末な悲劇に対しては、惜しみなく浪漫的な感情を放出してやまない。なんという情念の鈍感さ。 なんという理性と感覚のアンバランスであることよ。

いずれにせよ、私(たち)はみずからの動物脳から発する喜怒哀楽の感情、とりわけ涙という塩辛い水分を信用したり、過大な意義を与えてはならない。

現実を知れば知るほど身軽に動けぬこの矛盾をいかにすべきや 茫洋
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by amadeusjapan | 2008-07-01 21:17 | 自然

あまでうすが綴る音楽と本と映画と詩とエッセイ
by amadeusjapan
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