晴風万里

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高橋源一郎著「銀河鉄道の彼方に」を読んで



照る日曇る日 第609回

これはげんざい著者がこの混沌とした世の中にあって翻弄されている我等の人生の根本問題について間歇温泉の水脈の放出のごとく頻々かつ長々と思案に耽る、いうなれば一種のゆるい哲学小説のやうなものである。

そこでは、タイトル通り宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を踏まえたり引用しつつ、かのジョバンニ選手が登場して源ちゃんの息子と思しき少年の行方を追ったり、さまざまなエピソードがきら星のようにまたたくのであるが、おおざっぱに括ると、人間とはなにか、人間のほんたうの幸福とはなにか、しかしてそもそも私らがその中で存在していると称される宇宙とはなにか、エトセトラの諸問題が、563頁にわたって延々と追究されているので、さすがの源ちゃん大フアンのわたくしも途中で昼寝したり、あくびをしたり、被災地からやって来た次郎君を愛撫したりで大変だったが、読むほうがこれくらい大変なのだから、書く方はもっと大変だったに違いない。

そのようにお互いに苦労と辛抱を重ねながら書き進み、かつまた読む進む小説であるから、著者が本書で本当はなにを言いたかったかはあんまり分からなくとも、書き手と読み手が一緒に行く宛てなしの銀河鉄道の列車に乗り込み、お互いに呼吸を併せて一種の知的探索、といって悪ければ、禅問答的自問自答、といってまた悪ければ、なんの成算も予定調和のシノプシスもなく前人未踏の臨生臨死の領域にどどししどっどと踏み込んでゆくというハラハラ時計付きドキドキ生命爆弾体験をする仕儀となる。

ともかくこれは巨大なスケールの実験小説であり、その果敢な試みが成功しているとはお世辞にもいえないけれど、並みの読書では絶対に出来ない秘められた内的事件をいつしか閲してしまったような、そんな不可思議な気がする奇妙な味わいの小説なのである。

別るるは少し死ぬることと覚えしがこの身を刻む痛みなりけり 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-21 09:27 | 読書

あまてらすは面白い



「これでも詩かよ」第12弾&ある晴れた日に第141回

スサノヲの乱暴がランボーのやうに酷いので
あまてらすは天の岩戸にお隠れに。
全世界が真っ暗闇になったので
やおよろずの神様は困った、困った。

そこで出番だ、アメノウズメ。
DⅩ東寺&十三ミュージックをしのぐ超大胆なストリップ。
やおよろずの神様は、ヤンヤ、ヤンヤの喝采だ。
ヤンヤ、ヤンヤの喝采だ。

それを耳にしたあまてらす
すわ何事かと訊ぬれば、
「あなたさまより美しい神様がいまここに」という返事。
絶句、絶句のあまてらす。

焦りまくったあまてらす
岩戸の陰から顔を出せば
鏡に映った自分の顔が
ほんのすこうし白いじゃないか。

「こはいかに このライヴァルは何者じゃ?」
呆然として立ちつくす「面、白き神」あまてらす
えたりやおうとアメノタヂカラオ
すかさず女神を引き出せり。
見事女神を引き出せり。

かくて世界はもとどおり
光と平和が満ちあふる。
あな面白や あまてらす
あな面白や 高天原

私語止めぬ学生たちを怒鳴りつけるさりながらそは私語ゆえの怒りなりしか 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-20 06:45 | 詩歌

天上の青


「これでも詩かよ」第11弾&ある晴れた日に第140回


安倍内閣が誕生してから、我が家では、いいことがない。別に彼のせいとは言いませんが。

なんとかホームに入った長男でしたが、通所施設では完全に鼻つまみ者となってお手上げ状態らしい。訳の分からない言葉を繰り返し、大声で叫び、頭をボカボカ叩いているというのです。

その訳の分からない言葉というのは、例えば「山川さん、大嫌いです!」というような叫び声であって、山川さんというのは彼の行きつけの歯医者さんのスタッフの名前であり、実際は長男にとても優しくしてくれる女性なのだが、「山川さん、大嫌いです!」というのは表向きだけの科白であって、じつは「お父さん、大嫌いです!」といえないものだから、気の毒にその代わりに彼女が血祭りに上げられていることを私は知っています。

昔からひどく短気な私は、仕事の忙しさなどにかまけて、彼が犯した些細な過ち、あるいはまったくの無辜の罪に対して「こらあ、この馬鹿野郎!」などと、幼い時から現在に至るまで幾度となく怒鳴りつけた。

それを発した私がすぐに忘れてしまったそのいわれのない醜い罵声は、長男のそれでなくとも繊細で神経質な脳髄の奥底にくっきりと焼きつけられて、終生取り除くことの出来ない傷跡として残ってしまい、それが折に触れて普段は平静な彼の脳波を激しく乱すのです。

生まれつきの脳の障碍ゆえに、彼はほとんどすべてのこまごまとした記憶を滑らかに忘却できないとういう不幸な星の元に生まれました。むかし出会った人の名前、耳にした些細な言の葉、訪ねた場所の記憶、乗った電車と駅の名前、踏切で鳴る警報機の調性などななど。

「こらあ、この馬鹿野郎! てめえなんか死んでしまええ!」

幾たびも口を衝いて出た私からの心ない暴言は、彼の生まれつきの脳の障碍と密接不可分のおそるべきトラウマとなって、いま彼の心身を鋭く苛んでいるのでしょう。

「おお、許してくれえ、息子よ、お前はいい子だ。世界でいちばんいい子だ。」
などと今頃になって頭を垂れて懺悔しても、もう遅い。遅すぎる。後の祭りです。

困った、困った。どうしよう。「私、もうどうしていいか分からない。」と絶望に駆られた妻が泣いているが、いまさらどうしようもない。ぜんぶおいらが悪いのだ。

かててくわえて、次男と私には相変わらず仕事がない。
私が勇んで書いた52通の求職状のうち返事があったのはたった4通で、いずれも丁重なるお断りでした。がっかり、そしてがっくり。

安倍内閣が誕生してから、我が家では、いいことがない。別に彼のせいとは言いませんが。

暗い気持ちで窓の外を見るともなく眺めていたら、ある光景が目に飛び込みました。
ことしはじめての天青が、いつの間にやら咲いていたのです。

青く透きとおった天上の色の朝顔が二輪。
悩み尽きないわれらの魂の奥の奥まで、限りなく透きとおった天青の花。
朝顔の上の大空には巨大な入道雲が浮かんで、朝からニイニイゼミの合唱です。


滑川で2匹のアオダイショウが泳いでいた2013年7月4日を「蛇の日」と命ず 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-19 09:28 | 詩歌

あかるいナショナル



「これでも詩かよ」第10弾&ある晴れた日に第139回

あかるいナショナル
あかるいナショナル
きょうも元気だ
ニッポン チャチャチャ

アカイ アカイ 平家は アカイ
シロイ シロイ 源氏は シロイ
アカ カテ シロ カテ
ニッポン チャチャチャ

あかるいナショナル
あかるいナショナル
みんな元気
ニッポン チャチャチャ

アカイ アカイ 腐女子は アカイ
シロイ シロイ 醜男は シロイ
アカ カテ シロ カテ
ニッポン チャチャチャ

あかるいナショナル
あかるいナショナル
みんな元気
ニッポン チャチャチャ

アカイ アカイ 東京は アカイ
シロイ シロイ 産経は シロイ
アカ カテ シロ カテ
ニッポン チャチャチャ

あかるいナショナル
あかるいナショナル
みんな元気
ニッポン チャチャチャ

アカイ アカイ 社共は アカイ
シロイ シロイ 自公は シロイ
アカ カテ シロ カテ
ニッポン チャチャチャ

あかるいナショナル
あかるいナショナル
きょうも元気だ
ニッポン チャチャチャ

今日も元気だニッポンチャチャチャ日本全国明るいナショナル 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-18 09:25 | 詩歌

ドナルド・キーン著「日本人の美意識」を読んで


照る日曇る日 第608回

日本人の美意識は足利義政の東山時代にそのエッセンスが確立されたといわれているが、著者はその美意識を1)「暗示」または「余情」、2)いびつさ、ないし不規則性、3)簡潔、4)ほろび易さの4つの視点からくわしく解説している。

2番目について私の個人的な思い出はフランスのヴェルサイユ宮殿の大庭園を遠望した瞬間に脳内に惹起しためまいと吐き気で、この広大な空間を整然とした幾何学的な法則で整除しようとする西欧人の非情な意図に、私のそれこそ「日本的な」感性は、生理的に反発したのである。どうしても受け容れられない非人間的かつ天に唾する邪悪で悪趣味な美意識として。

わたくしのこれと同様な生理的嫌悪は、例えば都心の超高層ビルやマンションを見上げた瞬間にも湧きおこってくる。これらの建築物は「簡潔」さこそ備えてはいても、「暗示」も「余情」も「不規則性」もないが、鉄とコンクリートとガラスによる頑丈な矩体であるはずのそれらに、立ちあげられた時点ですでに内在している「ほろび易さ」が垣間見られるのは不思議なことである。

もしかするとバベルの塔のように天空に伸びる建築たちは、それらの人間たちの神をも恐れぬ不遜なたくらみの空しさを見抜き、おのれを待つ不吉な運命におののいているのかもしれない。

しかしものみなが激しく推移するこの節では、徒然草の中で兼好法師が「すべて、何も皆、ことのととのほりたるはあしき事なり。しのこしたるを、さて打ち置きたるは、面白く、生き延ぶるわざなり」と喝破したり、松尾芭蕉が「霧しぐれ富士をみぬ日ぞ面白き」と吟じた日本美学の根幹も、急速に失われつつあるような気がしてならない。

わが書きしメールを消さずその上に返信する人の無精を憎む 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-17 10:26 | 読書

南部英雄監督の「恋するトマト」を観て



闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.509

タイトルがあまりにも陳腐なので止めよう止めようと思いながら見ていたら、どんどん引きずり込まれて最後は涙していた。なんといっても企画・製作総指揮・主演・脚本の大地康雄の映画への愛と情熱が産みだした快作には違いない。

霞ヶ浦の近くで老いた両親と農業を営む青年が同伴者を求めて叶わず、とうとうフィリピンにまで繰り出してこの国の、そしてわが国の民草の貧しさや豊かさについて痛切な体験を身に刻む話である。

それにしても現代に生きる普通の日本人が農業では暮らせず、結婚も出来ないとは、なんと悲惨な状況であることか。この映画の主人公は奇跡的な僥倖に恵まれたが、依然として大きな社会的な障壁が彼らを孤絶の場所に閉じ込めているのである。


ああいくら考えても思い出せぬポール・ニューマンが私立探偵を演じたあの映画 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-16 08:43 | 映画



「これでも詩かよ」第9弾&ある晴れた日に第138回  

君が怒れば、私は悲しい。
君が歌えば、私はほほえむ。
君が泣けば、私も泣こう。
君が笑えば、私も笑うだろう。

君が描けば、妻は眺める。
君が食べ過ぎれば、妻は心配。
君が頭をボカボカ叩けば、妻も頭を抱えて絶望。
君が「お母さん、シリトリしよ」と言えば、妻はうれしい。

君が耳に指を突っ込んで通りを激走すれば、私はうろたえる。
君が両手をバシバシ叩き、ウウウウ唸るなら、私は棒立ちになる。
君が「お父さん、蛇ですよ」と教えてくれれば私は驚き、それがムカデだったらひと安心。
君が「黒木メイサのDⅤD見ますよ」と言えば、私も一緒に見るだろう。

君が簡単ケイタイを使えたので、妻はビックリ。
君が電話ばかりすれば、妻は心臓がパクパク。
君から電話が無くても、妻はハラハラ、ドキドキ。
君が日に40本も電話する日が続けば、妻は死んでしまうだろう。

君が喋れば、私は聞こう。
君が「ミニストップへ行ってきます」とえば、私は「行ってらっしゃい」と応じる。
君が激しくドアを閉めれば、私は眉を顰める。
君が私を嫌っても、私はじっと我慢するだろう。

君が列車遅延に巻き込まれたら、妻はオロオロ。
君が地震に遭えば、妻は停電の暗闇の中を自転車で藤沢まで捜索に行く。
君が無事に帰宅すれば、妻は安心。
君が眠れば、きっと妻も寝られるだろう。

君が怒れば、私は悲しい。
君が歌えば、私はほほえむ。
君が泣けば、私も泣こう。
君が笑えば、私も笑うだろう。


耕君がおだやかな一日を過ごしてくれるただそれだけが我が家の願い 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-15 10:28 | 詩歌

君のパーティ



「これでも詩かよ」第8弾&ある晴れた日に第137回  

君のパーティに票を入れると、基本的人権がそうとう奪われる。たぶん。

君のパーティに票を入れると、表現の自由もかなり奪われる。あじゃぱー。

君のパーティに票を入れると、口先ばかりで実態の無い3本の博打矢作戦に加担することになる。ややや。

君のパーティに票を入れると、経済の縮小均衡配分政策を捨てることになり、少子化社会にあっては暴挙に近い経済成長の生体実験に巻き込まれ、国民生活の安寧を危険に晒すだろう、まちがいなく。

君のパーティに票を入れると、日本の貧富格差はますます深まり、持てる者と持たざる者との対立は深刻になるだろう。びしばし。

君のパーティに票を入れると、世の中が暗くせちがらくなり、いらざる競争が激化し、外国と無益な事を構える危険性が高まる。どんどん。

君のパーティに票を入れると、いずれ国を滅茶苦茶にすること間違いなしの思いつき経済政策を認めることになる。あかんあかん。

君のパーティに票を入れると、うちの耕君のような障碍者や経済的弱者への物心両面の援助が少なくなる。ばかたり。

君のパーティに票を入れると、第2次世界大戦ちゅうにこの国がアジアの民衆に対して侵した領土的政治的経済的社会的肉体的侵略の史実が曖昧になるだろう。そうとう。

君のパーティに票を入れると、国民とか市民とか住民が中心の考え方が大きく後退して、国とか国家とか敷島の大和心とかを大声で喚き散らす人間が増える。らあらあ。

君のパーティに票を入れると、絶対的戦争放棄が放棄される。ぜったい。

君のパーティに票を入れると、国民主権はないがしろにされ、拝啓天皇陛下が元首になる。明治明治。

君のパーティに票を入れると、憲法が政府の横暴を阻止できなくなる。ありゃりゃ。

君のパーティに票を入れると、税金が増え、医療費が増え、年金が少なくなる。かんにん、かんにん。

君のパーティに票を入れると、その反民衆的な歌詞と壱越調律旋の陰鬱なメロディーが嫌いで、できたら「君が代」を明るく元気な「青い山脈」に取り変えたいとひそかに願っている私のような人間は、大東亜戦争当時の私の祖父と同様に牢屋に入れられることになるだろう。いやや、いやや。

君のパーティに票を入れると、日本を取り戻すとかいって懐かしの大日本帝国憲法が復活するだろう。ああだうだうの輸送船。

君のパーティに票を入れると、安全性とかエネルギー問題はそっちのけで、核武装に不可欠な原発維持に突き進むだろう。ハイヨー、シルバー!

長くなりすぎるのでもうやめるが、ざっと以上のような理由で、残念ながら私は君のパーティに投票できないんだ。悪しからず。

景気より大事なことがあるはずだけどとりあえず全部忘れて安倍チャン万歳 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-14 09:50 | 詩歌

ドナルド・キーン著「足利義政と銀閣寺」を読んで



照る日曇る日 第607回

本邦の歴史上これほどにも政治的にも武人としても無能で、周囲に迷惑をかけた将軍が他にいただろうか。

父義満に倣って若き日には多少の政治的イニシアチブを発揮してはみたものの、細川対山名の戦国武将対決の修羅場からは逃げの一手で花の御所から東山に逃亡、国政の最高責任者たるものが万事を放擲して後に銀閣寺となる隠居所と庭園作りに精を出すのだから下々の者はたまったものではない。

細君の日野富子には終生頭が上がらなかったのはお笑い草だが、最大の問題は将軍職の跡継ぎ問題だった。三顧の礼を尽くして嫌がる実弟義視を無理矢理還俗させて新将軍に就けたにもかかわらず、富子との間に実子義昭が誕生すると悪妻の泣き落としに大いに動揺してうろたえる。

この動揺の間隙をついて浮上したのが細川山名2大勢力で、彼らは将軍職の相続争いを彼らの権力闘争に利用したのだった。だから不肖義政の家庭内問題の不始末が、京の都を完全に焼き払ったあの応仁の大乱を引き起こしたことになる。

ところがこの日本一の超無能男こそが現在の日本文化の美意識の大本を作った東山文化の創始者であり、住宅も庭園も茶も能の幽玄も水墨の絵画墨蹟もことごとく彼の教養と美意識の発露であったというのだから驚かずにはいられない。先進国中国の文化遺産を巧みに吸収、換骨奪胎しおおせた史上最悪の将軍義政は、著者がいうように、「すべての日本人に永遠の遺産を遺した唯一最高の将軍」だったのである。

余談ながら同時代の能役者世阿弥の蹉跌も後継者問題からであった。足利義政と同様彼も弟の子元重(音阿弥)を後継者に定めたのだが、その後誕生した実子元雅の父観阿弥を上回る天分に驚き、その動揺を悪将軍義教に衝かれて観世流分裂に追い込まれたとも考えられる。

政治、芸術、実業いずれの世界にあっても、今も昔もいちばん難しいのは後継者問題なのだろう。


震災で南に逃げた人々の気持ちは分かるが好きにはなれない 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-13 10:10 | 美術

梅原猛・観世清和監修「元雅と禅竹」を読んで



照る日曇る日 第606回
金春禅竹の疾走する悲しみ
「翁と観阿弥」「世阿弥」に続く「能を読む」シリーズの第3巻は、世阿弥の長男観世元雅と娘婿金春禅竹の登場である。本巻では元雅の代表作である「藤戸」「天鼓」「弱法師」「隅田川」、そして禅竹の「定家」「芭蕉」「杜若」「三輪」「龍田」などを中心に彼らの作品と考えられている38曲をとりあげ、現代語訳を付した懇切丁寧な解説を施している。まさに「能を読む」醍醐味ここに尽きるといっても過言ではないだろう。

父世阿弥から「比類なき達人」とたたえられた元雅の作品に通底するのは、その短い生涯を予知していたかのような名状しがたい悲痛の念である。「弱法師」における盲目の美少年俊徳丸の夕日の日想観の光景はかの黒澤明の「乱」でも引用された名場面だが、さしずめ小林秀雄なら「モーツアルトのト短調交響曲を耳にしているような疾走する悲しみ」とでも評するに違いない。

梅原氏は金春禅竹の作品に流れる男女合体・両性具有の思想について論じ、「定家」における藤原定家と式子内親王の爛れた邪淫、「芭蕉」における芭蕉の精と山僧の性交、「杜若」における在原業平と彼が関係した8人の女性たちの象徴である杜若の精との男女和合の歌舞の道に触れて、「これぞ天台本覚思想の真髄である草木国土悉皆成仏の現れである」と喝破するのだが、いつもなら素直にウンウンとうなずくはずの僕ちゃんが、思わず小首をちょいとかしげたのはいったいどういう風の吹きまわしだったのだろう。

足利義満という権力者によって能の世界の絶頂に立ったかに思われた世阿弥と元雅だったが、その子義教の代になると急激に遠ざけられ、元雅は暗殺、世阿弥は佐渡に配流され、代わって世阿弥の甥音阿弥が重用されるようになる。

私はかねていくら短気で横紙破りの独裁者義教でも、そこまでやるには余程の理由があるはずだと思っていたのだが、松岡心平氏の「元雅の地平」を読んでその裏事情についてはじめて知ることができた。

世阿弥の長男元雅と次男元能(「申楽談義」の著者)は、かねてより南朝の小倉宮を支持する南大和の豪族越智氏の反権力闘争に加担しており、そのとがめを無実の世阿弥までが蒙ったのである。血気にはやった若者の政治参加が、天才能楽師親子の死命を制した。今も昔も政治の火遊びはあたら有為の才能を殺してしまうのである。


モデルの道端ジェシカより元体操の池田敬子選手が好きだ 蝶人
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by amadeusjapan | 2013-07-12 10:36 | 読書

あまでうすが綴る音楽と本と映画と詩とエッセイ
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