晴風万里

2009年 03月 19日 ( 1 )




小川国夫著「イエス・キリストの生涯を読む」を読んで



照る日曇る日第243回

イエスの言葉については郷里の丹陽教会で、S牧師をつうじて再三再四にわたって日夜聞かされたが、神やイエスの実在について、わたしはどうしても信じることができなかった。まことに失礼ながら、時折はまるで夜店の香具師のような説教だとも思ったものである。

それはこのたび小川国夫のこの聖書講義を読んでも、本当のところは同じように感じた。信じる者と信じられぬ者、神につく人とつかぬ人。彼らと私の間には、たったの1歩を隔てて、どうしても飛び越えることができない千尋の谷底が横たわっており、彼らはその谷の向こうから神聖なることどもを、さまざまに語りかけてくるのであるが、やはりそれらはすでに異界に居住する賢人、聖人の言葉であって、しょせん私のような異邦人には解しがたい言葉なのであった。

そもそも新約聖書は、神様と人類のあたらしい契約、約束の書であるから、罪を犯した人類のために犠牲となったイエスの聖なる言葉とその復活を信じない者が読んでもほんとうは意味をなさない。契約を拒んだり無視しようと決めた人間などが手にしてはならない文書であると言っても差し支えないだろう。

しかし私は、謎のようなエホバの言葉、意味が分からないけれども妙に惹かれるイエスの言葉の深遠さに文学的な面白さを感じて、新旧ふたつの聖書を折にふれてひもとくようになったのである。

例えば私は、虐げられた人々の側に立って、「あなたたちの中で罪がない者がまず石を彼女に投げつけるように」(ヨハネ伝8章)と優しい言葉をかけるイエス、そして、その反対にエルサレムの神殿に乗り込んで、牛、羊、鳩を売る者を追い出し、両替する者たちの机を覆し、「私の父の家を商いの家とするな」と怒り、「この神殿を壊すがいい」と阿修羅のように絶叫する秩序破壊者のイエスが好きだった。(P113~118)

精神の王国にしか住めないイエスは、商業による蓄財と家族による平和の絆を本心では蛇蠍のごとく忌み嫌っていたのではないだろうか。そして少年時から青年時代にかけての私は、そんな「戦うイエス」を激しく愛していたのである。

けれども私にとってキリスト教はついに異国の一神教にすぎず、神と聖霊と子は難攻不落の砦であり続けるだろう。しかし、次に掲げる「南北戦争に従事して盲目になったある南軍兵士の祈り」なら私にも理解できるし、これを“神様の御業”と讃えた亡き大伯母の気持にも素直に寄り添うことができそうだ。

「答えられた祈り」(原文英語、アイリーン・ベン投稿 左近允訳)

功績をたてるために神の力を求めたのに
謙遜に従うことを学ぶように無力にされた。
もっと大きなことをするために健康を求めたのに
もっとよいことをするように虚弱を与えられた。
幸福になるために富を求めたのに
賢くなるように貧しさを与えられた。
人々の称賛を得るために権力を求めたのに
神の必要を感じるように無力を与えられた。
人生を楽しむためにあらゆることを求めたのに
あらゆることを楽しむためにいのちを与えられた。
求めたものは何も得られなかったのに、
望んでいたものは何でも得られた。
ほとんどわたし自身にかかわりなく、わたしの無言の祈りは答えられた。
すべての人の中で、わたしは最も豊かに恵まれた。


「ああ神様、おお、しかし神様」と身もだえしながら祈りしわが父よ 茫洋
[PR]



by amadeusjapan | 2009-03-19 11:10 | 読書

あまでうすが綴る音楽と本と映画と詩とエッセイ
by amadeusjapan
プロフィールを見る
画像一覧

以前の記事

2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月

最新のコメント

sukebass117..
by amadeusjapan at 11:47
コメント失礼します。 ..
by sukebass117 at 14:39
こんにちは。 私も汐留..
by desire_san at 23:10
santiargonさ..
by amadeusjapan at 14:18
明白な輪郭も色彩もなく、..
by santiargon at 13:54
santiargon さ..
by amadeusjapan at 11:21
desire_sanさん..
by amadeusjapan at 11:19
こんにちは。 私も六本..
by desire_san at 06:39
埴谷雄高の『自動律の不快..
by santiargon at 04:23
こんにちは。 私も六本..
by desire_san at 13:23

メモ帳

最新のトラックバック

ライフログ

検索

タグ

ファン

ブログジャンル

画像一覧